座りっぱなしのデスクワーカーに試して欲しい「大腰筋のエクササイズ」とは?【リモートワーカー必読】
2020年05月22日デスクワークでカラダの活動量が落ちると、どんな影響が出るのか
当面は自粛生活が続きそうですね。コロナウイルスの感染が爆発的に拡大することは、今のところ避けられているようです。みなさん、ステイ―ホームを続けましょう。ライターのくちやまだともです。こんにちは。
先日書いた記事では、座りすぎがいかに健康に影響を及ぼすかをお話しました。
あわせて、姿勢筋として体全体の調節を行う大腰筋の役割も解説しました。前回の記事を読んでない人は、ぜひ、大腰筋を活性化するエクササイズ、「ウインド・ミル」をやってみてくださいね。
今回は、また別のエクササイズを紹介します。その前に、座りっぱなしのデスクワークばかりで体の活動量が落ちると、どんな影響が出るのか。日本で行われた研究をご紹介したいと思います。
研究を行ったのは「国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ」です。同グループは日々の生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などとの関係性を研究しています。
まさに今、私たちは、コロナ禍において、生活習慣に劇的な変化が起きていますよね。たとえコロナウイルス感染症に罹らなくても、生活の変化によって病気のリスクが高まってしまうことにも注意する必要があるでしょう。
身体活動量が多い人ほど、がんにかかるリスクが低下する?
調査は、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所の館内に住んでいる人を対象に、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)にアンケート調査を実施しました。回答した45~74歳の男性3万7898人、女性4万1873人、合計7万9771人を、平成16年(2004年)まで8年にわたって追跡。身体活動量とがん罹患について分析しました。
「身体活動量」という言葉は、聞き慣れないかもしれません。本調査で、どのように求めたかというと、仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間を、下記に分けます。
・筋肉労働や激しいスポーツをしている時間
・座っている時間
・歩いたり立ったりしている時間
・睡眠時間
これらの各身体活動を運動強度指数MET(Metabolic equivalent)値に活動時間をかけた「METs・時間」スコアに換算します。
それらを合計することで、対象者ごとの平均的な身体活動量を算出。4群にグループ分けして調査を行いました。
その結果、身体活動量の最小群と比較したとき、最大群のがん罹患リスクは、男性で0.87倍、女性で0.84倍ということがわかりました。つまり、男女とも、身体活動量が多い群ほど、なんらかのがんにかかるリスクが低下しているということです。
さらに詳しく分析すると、男性では結腸がん・肝がん・膵がんで、女性では胃がんで、身体活動最大群で、有意に罹患リスクが低下しており、低下の傾向は女性でよりはっきりと見られたと言います。(※1)
ちなみに、この調査では、研究開始から3年以内にがんに罹った人を除いています。なぜならば、身体活動量が低いグループには、もともと体調が悪くて運動が難しい人が含まれる可能性がありますからね。
これらの結果から、身体活動量を低下させる「座りすぎ」「座りっぱなし」は、がん予防という観点からも、解消すべき生活習慣だといえるでしょう。
上肢の動きも大腰筋が鍵となる!
先日の記事でも説明したとおり、大腰筋は、股関節前面と下位脊椎の深部にあり、上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉です。そして、股関節屈曲に関わる主動筋であると同時に、他の筋肉を調節して体の動きを安定化させる、スタビライザーとしての機能も持っています。
下肢の運動において、大腰筋が関与しているのは、イメージしやすいかと思いますが、実は「ボールを投げる」といった上肢の動きでも、大腰筋はスタビライザーとして、機能しています。
また大腰筋の解剖学的の位置を見てみましょう。身体の中心にあることは前回も話しましたが、それに加えて、この位置は、動脈と外腸骨動脈といった血管組織の近くでもあります。全身の血行をよくするうえでも、大腰筋の活性化は欠かせないといえるでしょう。
座っている時間、それは「股関節を屈曲し続けている時間」にほかなりません。
股関節屈曲に関わる主動筋である大腰筋への負担は非常に大きなものになります。
「在宅で座っている時間が続くと、大腰筋が縮みっぱなしになります。大腰筋はインナーマッスルで、外から触れることができないだけに、エクササイズでしっかり伸ばしてあげましょう」
そう語るのは、鍼心堂・くすりのしんしん堂院長の沼口樹也先生です。前回は立位での運動でしたが、寝そべって行うエクササイズを沼口先生に、実演してもらいましょう。
大腰筋のエクササイズ ~腹筋ストレッチのための上体起こし~
「まずは、うつ伏せになってもらって、肩の近くに手を持ってきましょう。それから、地面に腰をつけます。そして、前方を見ながら、腕を伸ばしていき、上体を起こしましょう。縮んでしまった大腰筋を伸ばしていくイメージを持って行うと効果的です。座っているときとは、正反対の動きを大腰筋にさせることで、座りすぎの負担をリセットします」
ぐぐーっと伸びる感触が心地よいなあ。確かに、日常生活にはない筋肉の動きを感じることができます。
「腰痛がある場合は、腕をまっすぐにはしないで、耳を肩から遠ざけて、押し下げるようにしましょう。また、余裕がある人は、合わせてハーフ・ブリッジも行うとより効果的です」
ハーフ・ブリッジでは、仰向けになって両膝を曲げて、気持ちいいところまで腰をあげていきます。両方、寝そべったまま行えて、大腰筋以外の筋肉も一緒にストレッチできます。
ぜひ、日々のセルフエクササイズに取り入れてみてください。
【監修】沼口樹也先生(鍼心堂・くすりのしんしん堂)
【取材協力】鍼心堂・くすりのしんしん堂/宮崎県西都市上町1-53/TEL:080-2402-1109
【参考論文・参考文献】
(※1)1) Inoue M1, Yamamoto S, Kurahashi N, Iwasaki M, Sasazuki S, Tsugane S; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Daily total physical activity level and total cancer risk in men and women: results from a large-scale population-based cohort study in Japan. Am J Epidemiol 2008;168(4):391-403. doi: 10.1093/aje/kwn146. Epub 2008 Jul 2.
2) Biel, Andrew. Trail Guide to the Body. Books of Discovery, Boulder, CO,2010.
3) Brennan, Barbara Ann. Hands of Light. Bantam Books, New York, 1987.
4) Calais-Germain, B. The Female Pelvis: Anatomy and Exercises, Vista, CA,2003.
5) Jo Ann Staugaard-Jones.The Vital Psoas Muscle: Connecting Physical, Emotional, and Spiritual Well-Being. North Atlantic Books 2012.