鬱や不安障害などのメンタル疾患を根本から治すには向精神薬よりも「食習慣」や「栄養」が大事──精神科医・飯塚浩先生インタビュー
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鬱や不安障害などのメンタル疾患を根本から治すには向精神薬よりも「食習慣」や「栄養」が大事──精神科医・飯塚浩先生インタビュー

2022年10月12日

・なんだか最近やる気が出ない

・なにもかもが億劫に感じられる

・人と会話することや対人コミュニケーションに不安を感じる

 

自宅にこもりがちなコロナ禍を経て、こうした問題を抱えてしまった人は多いのではないでしょうか。

「医者になった30年前と比較して、メンタルクリニックにかかる患者さんで重症の方が明らかに減少したように思います。かわりに“だるい”、“なんだか眠れない”、“気分が重い”といった、 以前より軽めの症状、あるいは病名のつかないような不定愁訴(ふていしゅうそ)を訴える患者さんがケタ違いに増えています」

 

そう語るのは、診療実績16,000人、8割以上を2週間で寛解させている精神科医の飯塚浩先生。

話題の著書『小さな町の精神科の名医が教えるメンタルを強くする食習慣』(アチーブメント出版・刊)がベストセラーとなっています。

メンタル疾患の予防に本当に大切なものとは何か。お話を伺ってみました。

 

インタビュー

飯塚 浩(いいづか・ひろし)

精神科医、精神科専門医。鳥取大学医学部精神神経医学部に入局し、難治性うつ病、躁うつ病を中心とした臨床研究に携わる。1996年より、さいとうクリニック(東京都)において、児童虐待や家庭内暴力といった家庭問題、アルコール薬物問題、摂食障害、PTSDなどの問題の臨床と研究に取り組む。2001年、鳥取県にメディカルストレスケア飯塚クリニックを開院。著書に『小さな町の精神科の名医が教えるメンタルを強くする食習慣』(アチーブメント出版)などがある。

・メディカルストレスケア飯塚クリニック:https://iizukaclinic.jp

 

後編記事はこちら:【医療用大麻】魔法の次世代万能薬「CBDオイル」──現代人が慢性ストレスから解放されるための方法とは 精神科医・飯塚浩先生インタビュー | カラダチャンネル

 

薬物療法だけではない、根本的な治療を探してきた

※この取材はオンラインで行いました

 

――飯塚先生は、通常の精神科医の治療(薬物療法、対症療法)だけではなく、オーソモレキュラー栄養療法や生活習慣に対するアプローチなどを積極的に採り入れてメンタル不調の患者さんの診察に取り組まれています。まずはそういった治療法をされることになったきっかけから教えてください。

 

飯塚浩先生(以下、敬称略):まずメンタル疾患だろうが、認知症だろうが、現代病というものは、多くの要因により起こっているとういう認識が大切です。現代病が単一の原因で生じているものではない以上、一つの化学物質の投与で完治するといったことはありえません。その多くの要因に一つひとるアプローチしていかねば、本当の回復はありえないわけです。

 

――薬は無意味、ということなのでしょうか。

 

飯塚:いいえ、使い方次第です。かなりのうつ状態であっても、熟練の精神科医なら1〜2週間ほどで多くの患者さんを寛解に近いところまでもっていけます。それにより患者さんの苦痛を和らげ、生活や仕事などへのダメージも最小限に抑えることができます。しかし大切なことは、それが決してゴールではないということです。

 

――つまり、薬により症状を抑えるだけではだめだということですね。

 

飯塚:そのとおりです。たとえば「うつ」では神経伝達物質のアンバランスが生じます。しかし、うつは神経伝達物質そのものの病気ではありません。神経伝達物質のバランスには栄養、睡眠、カフェイン、精神的ストレスなどが大きく関わります。つまり、薬によって神経伝達物質だけを整えたとしても、その不調を生じさせている多くの原因がそのままでは薬をやめられないのです。またさらなる負荷があれば、薬を飲んでいても不調が続いてしまいます。

 

 

――不調の原因となっているさまざまな要因も取り除かなくてはいけない、と。

 

飯塚:私はそうした慢性的なストレスを何とかしたいと考え、多くの心理療法を学びました。また、オーソモレキュラー栄養療法、腸管アプローチ、カラダにダメージを与えるさまざまな生活習慣の是正、漢方や鍼灸などの東洋医学的なアプローチなど、効果がありそうな手法を積極的に取り入れていったのです。

 

――処方薬が必要のない状態にもっていくわけですね。

 

飯塚:そうです。現代的な生活はさまざまな形で私たちに負担をかけています。メンタル疾患に限らず、慢性的な不調の原因はすべて私たちの生活習慣にあります。どんなものがどのようなダメージになっているのか、という知識がどうしても必要です。それをまとめたものが『小さな町の精神科の名医が教えるメンタルを強くする食習慣』という本なのです。

 

「突然メンタルの状態が悪くなる人」はいない

 

――食事と栄養がカラダの不調に関係あるのは素朴に理解できるのですが、メンタルの不調にも栄養が大きく関わっているということですよね。

 

飯塚:メンタルだけが突然悪くなる人って、いないわけです。肩が凝る、疲れやすい、食欲不振や過食、夜になっても眠れないなど、なにかしらの体調不良が先行します。最後の方でメンタルの不調がでてくるのです。

 

――カラダのバランスが崩れることと、ココロのバランスが崩れることが同時に起こる。

 

飯塚:「緊張した分は緩めて、疲れたぶんは休む」ということで、私たちココロとカラダはバランスをとっています。緩まないうちにさらに力んでしまうと、疲労がどんどん蓄積していきます。それをもっと力むことでなんとかしようとしたり、カフェインやアルコール、甘いものでごまかしたり……。そんな感じでうまく休めない状態が続くと、うまく動けなくなります。それがひどくなると、休んでもいい状況なのに休めなくなります。あとは悪化の一途をたどってしまう。これが「うつ」です。

 

――なるほど。

 

飯塚:心身がストレスを受けると、ストレスホルモンが出て、一時的にはテンションが上がります。しかしこれが慢性的になると、気分的にブレーキがかかるわけです。これはある意味「守る」機能ともいえます。ですから、普段からテンションが上がりやすい人はメンタル疾患にかかりやすいと言えるんです。

 

加工食品の摂りすぎが「質的栄養失調」を呼ぶ

 

――栄養療法的な観点からだと、飯塚先生の著書にもある「質的栄養失調」という言葉が印象的でした。あれはどういった意味なのか、あらためて解説を頂けますでしょうか。

 

飯塚:まず現代の日本人の食事の最大の問題は、加工食品の過剰摂取です。加工食品というのは、たいていその食材にあったもともとの栄養を落としながら、不要な添加物を加えているわけです。しかも、興奮を促すアミノ酸や過剰な糖質など、精神的依存性があって、かつ誰でもおいしく満足するように作ってあるので、お腹は膨れるのはもちろん、すごくおいしいと感じるように加工されているので始末が悪い。

 

――ちなみにその加工食品とはどのようなものを指すのでしょうか。素人でもスーパーで加工品かそうでないかを見極められるようなコツはありますか

 

飯塚:スーパー売っているソーセージなどの加工肉です。グルタミン酸や亜硝酸塩とか砂糖とかてんこ盛りです。ああいう保存のきくものというのは、腐りにくい。腐りにくいものというのは、腸内細菌に悪影響を与えます。だから逆にいうと、すぐに腐ってしまうような(自然に近い)食べ物を選んだほうがいいですよね(笑)。

 

――食品添加物は、腸内細菌を駄目にしてしまうということですね。

飯塚:できるだけ肉も野菜も丸ごとのものを買って、彩りよく食べましょう。これさえ食べれば大丈夫、なんてものはないんです。僕は無農薬で作っている農家さんと契約して、さまざまな食材を毎週送ってもらってるんですね。その季節の旬のものがいっぱい届きます。ピーマンの葉っぱとか、不揃いな葉っぱつきのニンジンや、大根とか、さつまいもの茎とか。おもしろいですよ。

 

グルテン(小麦の成分)をやめれば、ほとんどの花粉症は治る?

 

――実は私も糖質制限やグルテンフリーを試しているのですが、この考え方でスーパーに買い物に行くと、ほとんど糖質や小麦を使った食べ物ばかりだと気づきます。そうなると、買っていい食べ物って、あまりないんですよね。

 

飯塚:今、日本人の半数が花粉症であると言われています。もし花粉症なら、まずグルテンをきっちりやめてみてください。パンとか麺類とかお好み焼きとか、かたまりでグルテンを食べなくなると花粉症は軽くなります。私たちの腸は、体内に入れていい物と悪い物を神業的に選別しています。グルテンはその腸の網の目を緩めてしまうことで大切な選別機能をダメにしてしまいます。

 

――小麦に含まれるグルテンが腸内環境に悪さをすると。

 

飯塚:以前、食後に必ずアレルギー症状のようなものが出るために困っていた女性がいたのですが、パン・麺・お菓子などの小麦粉製品をやめ、腸の網の目を整える働きがあるビタミンD3の服用を薦めたところ、2週間後に来られたときには治っていました。

 

――ということは花粉症がひどい方は小麦をやめて、プロバイオティクスを摂って腸内環境を良くしたり、またビタミンDを摂取してみたりすると花粉症はよくなると?

 

飯塚:ほぼ完璧によくなります。このアドバイスを守ってまったく効かない人はいませんでしたね。

 

――次に花粉症の症状が出たときは、小麦をやめて整腸剤を飲み、ビタミンDを試してみることにします(笑)。

 

飯塚:整腸作用でいうと、いま流行っている乳酸菌飲料がありますよね。寝る前に飲むと眠りやすくなると評判になったのですが、あれは普段の食べ物が悪くて低血糖気味の人が、それを飲むことで血糖値が上がって眠くなっているだけ。血糖値は急に上がると、次に急激に下がる。真夜中にこれがおこると、交感神経が興奮してしまいます。実際、悪夢や歯ぎしり、寝起きが異常に悪くなった人が続出しました。

 

――血糖値が乱高下すると、集中力が低下したり、イライラなどが起こりやすいと言われています。

 

飯塚:血糖値が問題というよりも、「血糖値の急激な乱高下」が問題なのです。過剰な糖質の摂取や興奮によって、血糖値は急激に上がります。そうするとインスリンが反応して、今度は血糖値が急激に下がる。これにカラダが反応して交感神経が興奮してしまうので、不安や緊張が生じたり、ひどい場合にはパニック発作が起きてしまうのです。

 

 

――それと、急激な血糖値の乱高下があると、すごく眠くなっちゃいますよね。

 

飯塚:すぐにイライラしてしまう人もいますよね。そういう糖質中心の生活をしている方は、もちろん血糖値は安定していませんが、他の栄養素も不足しがち。例えばそういう人は、ビタミンB群が極端に不足している。なぜかというと、糖質をたくさん摂ると、これを代謝するためにビタミンB群を多量に消耗するんです。ましてや日頃からたくさんのアルコールを飲んでいたりすると、ビタミンB群や亜鉛、マグネシウムやらが消耗するので、インスリンの働きも悪くなり、血糖値がますます不安定になるという悪循環に陥ります。そこでさまざまなココロやカラダの問題が起こるわけです。

 

「メンタル疾患→サプリを飲む→良くなる」という単純な話ではない

 

――糖質を摂ることで、余計なものに栄養が使われるんですね

 

飯塚:糖質に限らず、大量摂取はよくありません。糖質の場合、カラダのタンパク質や脂質に糖がくっつくことで変性してしまう「糖化」という現象も問題となります。変性によって、骨がもろくなったり、酵素の機能が落ちてしまったり、さらに活性酸素が発生しやすくなり、神経にもダメージを与えます。統合失調症や認知症に糖化がかかわっていることについては、はっきりとした論文がでています。

 

――やはり、糖質制限をしないといけないのでしょうか?

 

飯塚:糖質を一切やめる必要はありません。ただ、糖質については、まず「量と質を考える」ことが大切です。ピュアな白米じゃなくて、例えばもち麦や雑穀を入れてみるなどが大事です。精製された白い小麦や白米をたくさん食べることは良くないです。

 

――メンタル疾患に話を戻すと、鬱や統合失調症、社会不安障害など対して、栄養療法を行うことでどんな効果を感じていますか。

 

飯塚:いま、「鉄だとかタンパク質、ビタミンB群などを摂ればうつが治る」といった本やネット情報がたくさんでています。しかし、そうは言いますけど、ドラッグストアや通販のサプリを買って服用しても、あまり効果が上がらないことが多いです。サプリの質や量に問題があることも多いですし、肝心の食事や生活習慣をほとんど変えていないこともあるでしょう。「これさえ飲んだらよくなるよ」というのでしたら、それは考え方が薬物療法と同じですよね(笑)。

 

――つまり、やみくもにサプリを摂っていればいい、というわけではないと。

 

飯塚:薬も「根本治療に向けた橋渡し」として使うなら立派な治療です。本当に鬱で困っている人をとりあえず寛解に近いところまでもっていくことで、食事や生活習慣の改善をしていくきっかけを作れるのであれば、とても有用だと思います。しかし、「うつならば鉄、ビタミンB群とタンパクをとればいい」というの考え方は、「うつならば薬を飲めばいい」という考え方とまったく同じになってしまいます。ずっと高額なサプリを飲むつもりでしょうか? そういう「薬物療法的な栄養療法」では、本当の改善は得られません。本当の改善に何が必要なのか、何をやめねばならないのか、今回の本に書いています。

 

***

 

後半の記事では飯塚先生が語る「日本人にありがちなマインドセット」のことや、話題の「CBDオイル」の効能について、深堀りしてインタビューしました。

ぜひ、チェックしてみてください。

 

後編記事はこちら:【医療用大麻】魔法の次世代万能薬「CBDオイル」──現代人が慢性ストレスから解放されるための方法とは 精神科医・飯塚浩先生インタビュー | カラダチャンネル