最近「もの忘れ」が気になりませんか?──30代から始まっている「アレアレ症候群」「軽度認知症」の傾向と対策
2022年08月09日・社内や取引先の人の名前が出てこない
・部下に適切な指示が出せなくなってしまった
・以前は間違えることのなかったうっかりミスを繰り返してしまう
・スケジュールやもの忘れが多くなった
・以前ほどの集中力が無くなってしまった
・「アレアレ、アレってなんていう名前だっけ」といった、言葉のもの忘れがある
以上のようなことがあてはまる人は、もしかしたら「アレアレ症候群」かもしれません。その状態を放置すれば、軽度認知症(MCI)や、より深刻な若年性認知症、アルツハイマー型認知症へまっしぐらの可能性も――。
その危険性を、先進的な知見と豊富な症例から分析し、認知症を予防するためのクリニックを立ち上げ、多数の著書で啓蒙してきた「ひろかわクリニック」の広川慶裕先生。
今回は精神科医で認知症予防専門医の広川先生にお話を聞き、なぜ「アレアレ症候群」が起きるのか、それがどのようなメカニズムで起こることなのかについて、詳しくお聞きしました。
広川慶裕(ひろかわ・よしひろ)
精神科医、認知症予防医。京都大学医学部卒業。認知症やうつ病、統合失調症などの精神疾患治療に携わる。メンタル産業医としても活躍中。認知症予防専門クリニック・ひろかわクリニック(宇治駅前MCIクリニック)、脳とこころの健康相談室(品川駅前MCI相談室)院長を務める。著書に『もの忘れ・認知症が心配になったら読む本』『認知症は予防できる!』『「認トレ®」で防ぐ認知症―完全4週間メソッド』『脳が若返るまいにちの習慣』『運転の認知機能を鍛える本』など多数。
・ひろかわクリニック:http://www.j-mci.com
後編記事はこちら▼
「糖質制限、運動、脳トレ」で劇的に頭が良くなる!もの忘れが多くなった脳(アレアレ症候群)を活性化する方法 | カラダチャンネル
「アレアレ症候群」の症状に気づいた時点で手を打つべき理由
──実は私も最近、個人的に「好きだったバンドの名前が出てこない」「昔に観た映画のタイトルが思い出せない」など、アレアレ症候群の典型的なパターンに直面してしまうことがあり、まだ40代後半なので不安に感じることもあります。今日は、その原因や予防策をお聞きしたく思っています。まず、先生のクリニックには、認知症の患者さんや、その手前の段階である「プレ認知症」の方はどのくらい来られるのでしょうか。
広川慶裕先生(以下・敬称略):認知症かもしれないとウチのクリニックにいらっしゃる患者さんのうち、認知症の一歩手前の人が半数くらいです。今おっしゃったような「アレ、アレ……」など、固有名詞が思い出せず、指示代名詞が増えてしまったという人がほとんどです。あとは、女性の患者さんで、料理の最中につい調味料を入れ忘れてしまうことが続くという人もいました。
──先生はご著書で、「認知症治療は認知症になる前に対応することがいちばん大事」とおっしゃられていますよね。
広川:私が最初に書籍を出版した2004年頃には、「認知症予防」という言葉そのものがある種のタブーだったんです。当時は、「認知症は予防できないもの」と言われてました。なぜなら、認知症になってしまうと、そもそも薬が作用する脳の神経細胞がすでに死滅しているから、本質的な問題として薬が効いてくれないんです。つまり、脳の神経細胞が死ぬ前に手をつけないと改善できない病気のため、なによりもまず「予防」の重要性を訴えてきました。
──ということは、いわゆる認知症、その手前の軽度認知症(MCI)、さらにその手前の段階のアレアレ症候群が、すべて地続きであり、どれくらい手前の段階で手を打てるかが重要だということですね。
広川:そのとおりです。つまり、アレアレ症候群くらいの「もの忘れ症状」が出た時点で、なんらかの手を打てば、将来の認知症のリスクがすごく下がるということです。私はアレアレ症候群については、軽度認知症(MCI)の前段階なので「プレMCI」と呼んでいますが、この段階から治療や予防を始めたほうが、認知症予備軍の方にとっていちばんのリスクヘッジになる。これは医学的なエビデンスもあることなのです。
──ちなみにその「プレMCI」は40代、50代から始まるものですか?
広川:いえ、早い人だと30代から始まります。人間の脳は、40代から徐々に衰え始め、急速に衰えるのは55歳くらいから。アレアレ症候群とは、つまり脳の老化の最初の兆候です。ということは、できるだけ早い段階で手を打たないと手遅れになるわけです。
「注意力が散漫になる」は、認知症の最初の兆候
──先生のご著書によると、人間の記憶のプロセスには「記銘(情報を覚えること)」、「保持(情報を保存すること)」、「想起(情報を思い出すこと)」の3つの種類があると述べられています。この「想起」が出てこなくなることが、アレアレ症候群の典型的なパターンかと思いますが、いかがでしょうか。
広川:そうでしょうね。ただ、「アレ、アレ……あの名前、なんだっけ?」と物事を思い出そうとしている時に脳内で何が起こっているか、その医学的なメカニズムはまだよくわかっていないのです。また、アレアレ症候群と言っても記憶に関するものだけではありません。よくあるのが、集中力が散漫になる、というもの。なにかに対して集中したり、注意したりする力が衰えるから、そもそも何かを覚えようとしても、記憶に留まらない。これは認知症のいちばん最初の兆候なんです。
──一般的に認知症というと、まずは「もの忘れ」が頻繁に起こってしまうイメージがあります。でも、それだけではなく、ものごとに対してフォーカスする力、認知する力そのものが衰えていく感じなんですね。
広川:もっと言えば、好きだった趣味が急におもしろく感じなくなる、興味がなくなってしまうなど、いわゆる「好奇心」や「知的関心」といった心の動きも衰えてしまうのも認知症の始まりなんですね。ちなみに、そうした状態はうつ病の症状とまったく同じなので、専門医でもうつ病と認知症を混同してしまうわけです。
──なるほど。では、先生はどのように診察を?
広川:こればかりは、私も初診だけではわかりません。患者さんの話を聞き、薬を使いながら、徐々に判明していくことが多いのです。また、脳の画像検査をしてみるとだいたいわかりますね。軽度認知症とうつ病のときでは、脳の血流が低下している部位が違うんです。
▲「血流の低下」が脳に異常をきたして、軽度認知症(MCI)に発展する
──つまり、脳内の血流が低下することが認知症の原因になる、と。
広川:血流が低下することで、脳の機能もだんだんと低下していきます。認知症にはいろいろなタイプがありますが、そのタイプの違いによって脳内の血流低下の箇所が違うんです。けれど、その場所がなぜ違うのかについては、現在の医学では説明できていません。
──まだまだ未知の領域なのですね。そもそも、MCIやアレアレ症候群になる根本的な原因に関しては、どのようにお考えですか。
広川:それについては、明確に2つの原因があると考えています。「ストレス」と「生活習慣」ですね。ストレスとはつまり、メンタル面が原因ということです。一方で、生活習慣が原因の認知症とは、いわゆる身体面を原因とするものです。精神的なストレスはうつにつながり、脳にダメージを与える。また、悪い生活習慣を送っていたり、食生活が乱れていると、血管が正常に機能しなくなり、認知症になりやすいと言えるのです。
「睡眠不足」「糖質の過剰摂取」は認知症になりやすい
──お話を踏まえると、精神的なストレスと、生活習慣の乱れが、脳内の血流を悪くする要因ということでしょうか。
広川:そうですね。まず、ストレスが多い生活を送っていると、脳のホルモンバランスが乱れます。その乱れとは、血流の乱れでもあるのです。血流が正常でなくなり、過活動してしまう。これが正常な脳の機能を阻害するわけです。
──一方の生活習慣という観点でいうと、やはり食生活や睡眠、運動かと思うのですが、具体的にはどんな生活習慣を送っている人が「アレアレ症候群」になりがちなのでしょうか。
広川:まずひとつは「睡眠時間が少ない人」です。そしてもうひとつは「糖質が過多な人」。認知症になりやすい人のパターンは、この2つにつきるとさえ言えますね。さらに言えば、「酒とタバコを習慣にしている人」でしょうか。これらを日常としていると、とにかく脳に悪く、認知症に発展する可能性が非常に高くなります。
──糖質を過剰摂取している生活を送っている人は、メタボ体型になりやすいと思うのですが、ということは、メタボ体型の人のほうが脳の老化が起こりやすい=認知症になりやすいと言えるのでしょうか。
広川:明確にそうだと言えますね。そもそも肥満の方は、どうしても血管がボロボロになっているのです。その延長上で血管が固くなったり、つまったりすると、脳はもちろん、全身の隅々まで血を送ることができなくなるんですよ。
──なるほど。日常的に糖質を過剰摂取しないことが肝要なのですね。では、もうひとつの「睡眠」という点ではどんなことに気をつけるとよいのでしょうか。
広川:脳には、毎日「アミロイドβ(ベータ)」という一種の「ゴミ」が溜まります。これは覚醒している間に蓄積するものですね。そして、寝ている間にこのアミロイドβを排出する機能が脳にはあるのですが、排泄しきるまでに5時間かかる。
──ちゃんと寝ないと、いつまでも脳内にゴミが溜まりっぱなしになると。
広川:そう。つまり、最低でも5時間以上の睡眠が必須なわけです。また、実は脳は睡眠中に「縮んでいる」のです。すると、脳が縮んだ分、スペースができます。このスペースにゴミが排出されるというイメージです。このメカニズムを「グリンパティックシステム」と呼ぶのですが、睡眠時間が短いとこのシステムが回らず、どうしても脳にゴミが溜まらざるを得ないんです。そうした状態が続くと、認知機能に重大な支障をきたしてしまいます。(後編に続く)
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広川先生によると、認知症、軽度認知症=MCI、アレアレ症候群はすべて一直線上にあり、その根本には「ストレス」や「荒んだ生活習慣」などによる血流の低下があるという。
では、その初期症状である「アレアレ症候群」になってしまったら、それ以上の症状に発展しないためにどのような予防方法があるのでしょうか。
次回は、広川先生の考える認知症初期症状の予防法や、豊富な臨床例も含めた「アレアレ症候群」対策をお届けします。
後編記事はこちら▼
「糖質制限、運動、脳トレ」で劇的に頭が良くなる!もの忘れが多くなった脳(アレアレ症候群)を活性化する方法| カラダチャンネル