【アレアレ症候群】もの忘れが多い人、メタボな人は認知症になりやすい!? 「ボケないための食事術」とは
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【アレアレ症候群】もの忘れが多い人、メタボな人は認知症になりやすい!? 「ボケないための食事術」とは

2022年06月28日

・好きだった俳優の名前や映画のタイトルが思い出せない

・大事な会議や商談の場で、取引先の担当者の名前が出てこない

・昨日食べた昼食がなんだったか思い出せない

・自宅から外出した直後に、部屋の電気を消したかどうか思い出せない

 

こうした「イメージは頭の中に浮かぶのに、該当する言葉が出てこない」症状に思いあたることがあったら、それはもしかしたら「アレアレ症候群」の典型的な症状かもしれません。

そしてこのアレアレ症候群は、放置すると軽度認知症(MCI)や認知症になるリスクもあると言われています。

治療が困難と言われる認知症。そうなってしまう前に、まずは日々の食生活や生活習慣から――というのはわかっているが、なかなか難しいのも現実。

今回は前編に引き続き、糖質制限食の第一人者である医師・江部康二先生にインタビューしました。

アレアレ症候群や認知症予防の観点からお話をお聞き、より良い日々の食生活にについて教えていただきました。

 

インタビュー

江部康二(えべ・こうじ)

内科医、漢方医。京都大学医学部卒業。一般財団法人高雄病院理事長、一般社団法人日本糖質制限医療推進協会理事長。糖尿病治療における糖質制限食の体系を確立したパイオニアで、自身も02年に糖尿病であることが発覚し、克服する。糖質制限食による糖尿病治療、漢方治療、アトピー・アレルギー治療を三本柱として患者の治療にあたる。『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』(東洋経済新報社)で糖質制限食を初めて全国に紹介し、医学関連書籍としては異例の約20万部のベストセラーを記録。他にも『名医が考えた 認知症にならない最強の食事術 』(宝島社)、『専門医がゼロから教える! 医学的に正しい「糖質制限」見るだけノート』(同)、『主食を抜けば糖尿病は良くなる! 新版: 糖質制限食のすすめ』(東洋経済新報社)など著書多数。

・ブログ:ドクター江部の糖尿病徒然日記

 

前回の記事はこちら▼

好きだった俳優の名前が思い出せない!?「アレアレ症候群」と認知症の関係とは【糖質の過剰摂取にご注意!】 | カラダチャンネル

 

糖質制限食は記憶力UPに効果アリ

※このインタビューはオンラインにて取材いたしました

 

――前回のお話をお聞きすると、認知症の予防と糖尿病の治療法には、共通するところがありそうですね。

 

江部康二先生(以下・敬称略):それに関しては、脳の「海馬」について知っておくと理解が深まります。まず海馬というのは脳の記憶を司る部分ですよね。これはあまり知られていないんですが、海馬はインスリンを分泌しているんです。アルツハイマー型認知症になった人の多くは、脳内の海馬におけるインスリンがうまく作用していないんです。

 

――糖尿病の患者さんが、膵臓のインスリンがうまく作用しないのと同じですね。

 

江部:そうですね。しかし、海馬のインスリンと膵臓のインスリンの作用は微妙に異なります。ただ結果として、「インスリン分泌作用とインスリンの効果がうまく働いてない」という言い方ができます。 アルツハイマー型認知症が第3の糖尿病と呼ばれている所以は、そのあたりでしょうね。

 

――アレアレ症候群や、その延長としての認知症の予防するためには、どんなことをすればいいでしょうか。

 

江部:やはり、辛くない範囲での糖質制限でしょう。私がやっている「スーパー糖質制限」では、1日3食の1回あたりの食事の糖質量で、10gから20g以下を目指します。それが大変という方は、「プチ糖質制限」で夜だけでも糖質をやめることを推奨しています。
ちなみにテニスのノバク・ジョコビッチ選手はこのプチ糖質制限をやっているそうです。練習量(運動量)の多い朝と昼は糖質を食べていますが、夕食はキッチリ糖質制限です。

 

PARIS, FRANCE – MAY 27: Novak Djokovic of Serbia plays against Aljaz Bedene of Slovenia during the 2022 French Open at Roland Garros on May 27, 2022 in Paris, France. (Photo by Antonio Borga/Eurasia Sport Images/Getty Images)

 

――ジョコビッチ選手もそうだと思うのですが、多少の糖質を摂っていても、やはり日中にたくさんの運動をしていることで血糖値が下がりやすいんですね。

 

江部:そうです。それが明治大正の頃までの日本人ですよね。1日の食事のうち炭水化物が7~8割を占めるような暮らしでも、基礎的な運動量が多かったため糖尿病や肥満の人が少なかったんです。

 

「日本人は昔から米を食べてきた」というのは幻想

 

――糖質を制限するとなると、ご飯やパンを食べられないと捉えがちで、「それは無理!」という方や、なかなか実行に踏み出せない方というも多いと思います。

 

江部:そういう方は「日本人は昔から米を食べてきた」とよく言われるのですが、まったくの誤解です。世界史から見ると、1万年前に今のヨルダン川流域で小麦の栽培が始まり、遅れてアジアでも米の栽培が始まった。
日本列島に人が住み始めたのは約3万8,000年前で、日本人が米作を始めた弥生時代は2,500年前ですから、日本人は3万5,000年の間、米を食べていませんでした。ですので、日本人が昔から米を食べ続けてきたというのは幻想です。

 

――近代になるまで、上流階級以外はあまり白米を口にしていなかったという話も聞いたことがあります。

 

江部:とくに地方に住む庶民はアワ、キビ、ヒエの生活でしたからね。そもそも白米は、農民が食べられるようなものではなかったんですよね。日本人が本格的に1日3食の白米を食べる習慣が広がったのは、明治時代の陸軍誕生以降です。陸軍に来たら、銀しゃりを朝昼晩食べさせるという誘惑をして、兵士を募集した。この時代のあたりが、多くの日本人が白米を日常的に食べ始めた頃なんです。

 

脳が一番好むエネルギー源「ケトン体」とは

 

――ところで、私も個人的に糖質制限をやっているのですが、糖質摂取をできるだけやめてから、いろいろと体調が良くなった気がしています。目覚めが良くなったり、集中力が増したようにも感じています。

 

江部:糖質制限を始めてしばらくすると、「ブドウ糖-グリコーゲン」をエネルギー源にしていた代謝から、「脂肪酸-ケトン体」をエネルギー源とする代謝に切り替わります。実は、脳が一番好むエネルギー源はケトン体なんです。近年では糖尿病治療薬としてケトン体を上げる薬があったり、脳だけでなく、腎臓の方にもケトン体はいいものであるという研究があります。

 

――ケトン体維持が認知症予防のひとつのきっかけになるということですね。そして、「糖化」「酸化」を抑えて老化を防ぐことがアレアレ症候群や認知症の予防にとって肝要だということがわかりました。糖化の原因は当然、糖質の摂取ですが、あらためて酸化の原因は何ですか。

 

江部:活性酸素ですね。人間は息を吸って吐いてますから、どうしてもエネルギーを作ったときに活性酸素が発生してしまいます。もともと人間には活性酸素を無害化する酵素(SOD)が備わっていまして、ビタミンC・ビタミンA・ビタミンEには抗酸化作用があります。

 

――では、酸化予防には、ビタミンCなどの摂取が肝心なんですね。

 

江部:そうです。そして、ヒトにとって20歳ぐらいが活性酸素を除去するSODがピークの年齢だとしたら、これは経年的に減っていきます。でも、運動習慣のある人は抗酸化作用が保たれる。
最悪なのは、なにも運動をしてこなかった人が40歳を過ぎて、一念発起でいきなりマラソンなどを始めてしまうことです。これは、SODがもう減っているのに、活性酸素が大量に発生してしまうわけで、カラダには非常に危険。 運動習慣を得るとしたら、まずはウォーキングからですよね。これなら活性酸素の発生は少ないです。

 

「食後に眠くなる」のは血糖値が乱高下しているサイン

 

――例えばお昼にラーメンを食べた直後に、急に眠くなることがあります。アルツハイマーの方は昼寝が多いということを聞いたことがありますが、このあたり関連性はありますか。

 

江部:それはちょっと別です。ラーメンを食べて、例えば血糖値が60以上も上がると、その時点で眠気がくるんです。そして、今度はインシュリンが出て血糖値を60以上も急激に下げると、これも眠くなってしまいます。つまり人間は、血圧もそうだけど、血糖値においても、できるだけいつも平坦な状態が好ましいのです。
でも、糖質を過剰に摂ることで血糖値を乱高下させてしまう。マウスの実験ですが、24時間、血糖値を300のままでキープした個体と、1日2回血糖値を上げた個体では、後者の個体の方がはるかに動脈硬化が見られたんです。

 

――なるほど。血糖値は、乱高下させることが危険なのですね。

 

江部:本質的には、空腹時の血糖値と、食後の血糖値をしっかり見ないといけないんです。健康診断では空腹時の血糖値しか測らないから、見過ごしてしまう。ちなみに、こうした血糖値の乱高下を繰り返していると、精神的にも不安定になって、怒りっぽくなったり、うつの症状が見られたります。だけど、糖質制限をしている人にはそれが全然ないんです。
そもそも眠たくなることが頻繁にあることの方が、ヒトにとっては異常なサイン。例えば野生の生き物が食後眠たくなったりしたら、命の危機ですよね。我々は動物として、そんな遺伝子は受け継いでいないはずなんです。

 

――最後に、アレアレ症候群や認知症へ危機感を持っている読者の方々へアドバイスをお願いします。

 

江部:日常的に血糖値を乱高下させるような生活を送っていると、メタボになりやすいですし、それが糖尿病にもつながってきます。まずは糖質中心の食生活を見直してください。そして前回の記事の繰り返しになりますが、まずは「忘れてしまったことを覚えているか、覚えていないか」です。何かを忘れたことさえも覚えてないのが認知症なので、その一点はまず分けておく必要があります。

 

――メタボになってしまうような食生活を送っていると、脳にも悪影響があるということですね。

 

江部:またAGEsの蓄積が多い人ほど、記憶力に影響が出ます。AGEsの蓄積を少なくするためには、やっぱり食生活が基本。その予防については、アメリカ糖尿病学会も糖質制限食のエビデンスが豊富であると言い切っていますし、もうブームとは異なるものとして世の中に広がった実感があります。

 

▲糖質過多な生活を見直そう

 

――たしかに糖質制限を実践している人はかなり増えたように感じます。

 

江部:事実、ここ3年くらいは、コンビニやファミレスでも糖質制限食が広まりました。私が05年に初めて糖質制限の著書を出した頃と比べたら、店で買える糖質制限食もだいぶ洗練されてきてますね。また、世界的に見ても日本のようにきめ細かい糖質制限食のある国はないと思います。

 

――たいへん勉強になりました。日本は糖質制限の環境が整った国なんですね。

 

江部:そう思います。私も52歳で糖尿病を発症したときは正直がっくり来たんです。けれど、今思ったらラッキーだったとも思うんですね。医者って、ストレスの多い職業のせいか短命になりがちな側面もあるんです。でも、糖尿病になったことがきっかけで糖質制限に出会うことができた。ぜひ、多くの方に糖質制限をして、健康な身体と健康な脳を維持していただきたいですね。

 

***

 

アレアレ症候群やMCI、さらにはアルツハイマー型認知症の予防に効果のある糖質制限。

でも、まだまだその言葉はダイエットの文脈で語られることが多いのも事実です。

今回のインタビューで感じたのは、江部先生が「生理学的真実」と述べていた糖質制限の力。

70代にして服薬&サプリゼロ、裸眼で車の運転や読書もこなし、記憶力も抜群という江部先生は、まさにその効用の実践者。

興味のある方は先生の著書なども通じて、ぜひアレアレ症候群や認知症にならない食生活を目指してみてはいかがでしょうか。

 

前回の記事はこちら▼

好きだった俳優の名前が思い出せない!?「アレアレ症候群」と認知症の関係とは【糖質の過剰摂取にご注意!】 | カラダチャンネル