『背骨が通れば、パフォーマンスが上がる!』運動進化論から考える、人間の潜在能力の高め方とは?【運動科学者・高岡英夫氏監修】
2021年05月28日こんにちは。運動科学者・高度能力学者の高岡英夫です。
人間の潜在能力(ポテンシャル)を一気に引き上げるためには、26個のある背骨一つひとつの自由度を高めて、軸を形成し、「背骨を通す」ことが非常に大事だということをご存知でしょうか。
今回は、そうした私の考えをまとめた最新刊『背骨が通れば、パフォーマンスが上がる! 』(高岡英夫 ・著/カンゼン・刊)から、一部抜粋してご紹介いたします。
魚類は背骨しかない
まず質問です。生物の進化の中で、背骨はいつどの段階で生まれたものでしょうか?
「えっ」と戸惑われるかもしれませんが、背骨は魚類の時代に誕生しました。人類もいわゆる脊椎動物という動物群に属していますが、その人類から進化の歴史をさかのぼっていくと、まず同じ哺乳類の四足動物時代があって、この四足動物も当然背骨を持っています。そこから、爬虫類、両生類、魚類とたどっていくと、魚類にも背骨があります。
ここからはとても重要な、「運動進化論」についての話の始まりです。「運動進化論」は、運動科学の中でも、人間の能力の進化についての、非常に重要な分野になります。
私たち人類のルーツは、紛れもなく魚類にあります。その魚類はどのような運動をしていたでしょうか。マグロやカジキといった類いの魚は、大海原を何百キロ、何千キロと泳ぎ続けます。その速度は自動車並みの時速50〜60キロどころか、カジキの仲間には時速100キロを超す種類もあるといわれています。クロマグロの成魚の平均体重は300キロといわれていますが、そうした大きな質量を持った魚が、抵抗の大きい水の中を、時速60キロ、100キロといったスピードで泳ぐのですから、とんでもないことです。
それを悠然とやり続けて、進化の過程で両生類や爬虫類が現れて、そこからさらに進化して、哺乳類、そして人類が誕生という流れの中で、魚類は進化から取り残されて、やがて淘汰され、滅んでいくような存在なのでしょうか?
決してそんなことはありません。まさに今日においても、地球上の七割を占める大海原を闊歩しているではありませんか。そんな彼らの運動は、どんな運動でしょう。
哺乳類のように、両手両足があって、それを駆使して凄まじく走り回るように泳ぎ回っているでしょうか? そんなことはありません。魚類には手足がなく、運動器官としてはまさに体幹、背骨しかないのです。
人間や四足動物の身体運動能力も、魚類のそれに少しアレンジを加えただけにすぎない
魚類は背骨でもって運動して、力強く、ダイナミックに、しかもしなやかで柔軟、非常にスキルフルでスタミナにも圧倒的に優れています。それが魚類であり、魚類の運動はそれで完結しています。
その空間の認知能力も大変なものです。魚類は当然、三次元空間で生きています。その三次元空間の認知能力は極めて優れたものです。そして三次元空間の中で、ありとあらゆる方向に動き回り、つねに周囲に気を配っています。なぜなら、完全な立体的環境の中でいつどこから天敵に襲われるかわからないからです。お互いに捕食者であり、餌であるという関係性の中で暮らしていて、まさに巧みに、ダイナミックに生きているわけです。
それが魚類なのですが、彼らには背骨しかありません。つまり体幹しかなく、手足は持ち合わせていない状態です。もちろん、方向舵として胸びれやその他のひれはありますが、尾びれは間違いなく背骨の延長なので、四肢と呼べるものではありません。
私たち人間、あるいは四足動物だって、素晴らしい身体運動のパフォーマンスを体現できますが、それは魚類の身体運動能力に少しアレンジを加えただけにすぎないのです……。
「そうだったんだ。魚類なんて手足がないので、身体運動については、私たちとまったくつながらないイメージだったけど、確かに言われてみればそうかもしれない」とご納得いただけたのではないでしょうか。
脳が「26個の背骨」を使いこなしている
実は、スポーツ、武道・武術、ダンスなどの高度かつ優れた運動というのは、必ず魚類時代の背骨の能力を根本として使ってこそ、はじめて可能になっているのです。それについて具体的に見ていきましょう。
人間の26個の背骨がすべて、互いに隙間を広げたり縮めたり、前後、左右、あるいは斜めにずれ合ったり、戻ったり、ときには止まったり、再度ずれあったりしています。また、軸まわりに左回転、右回転と、互いに逆回転したり、同じ方向に時間差で回転していったりと、こうした運動を自由自在に絶え間なく行っている……。
26個の背骨について、つねにそれを使っていることをベースに、上体でいえば肩甲骨を中心にして腕を動かす。下体については、股関節を中心にして脚を動かす。こうしたことができていると、まさに世界のトップ・オブ・トップ・オブ・トップに君臨するような、とんでもないパフォーマンスが可能になるのです。
サッカー界でいえば、全盛期のメッシやジネディーヌ・ジダン、クリスティアーノ・ロナウドのような、あの驚異的なパフォーマンスがまさにそれです。彼らはピッチで圧倒的な存在感を発揮して、味方からすれば無比無類の頼れる存在。敵にとっては、その存在が何をするかによって、決定的に自分たちが崩され敗北していくわけです。
そして、彼らはぶつかられたとしても強いうえに、ぶつかりそうになった瞬間、まったくしなやか、柔軟にして、すり抜けていく。世界のトップクラスのディフェンダーが囲んだとしても、彼らを引き連れ、バタバタと倒してしまう。ときには、まるで忍者のように一瞬にして姿を消して、相手が見失ってしまうような状態で動いたり、針の穴を通すような極めて難しいシュートを決めたり、ひときわ球速の速いシュートを放つ、こうしたことを可能にしているのです。
そのうえ、ピッチ全体を見渡す能力、仲間を見る、敵を見る、ボールを見る。目線はボールを向いていなくてもボールを見ている。このような認知能力、そして数秒先、十数秒先のことが見えているかのような近未来的な洞察力まで突出しています。
こうした能力は、26個の背骨の関係性、運動性によって支えられていて、脳が背骨をそのように使いこなすことができているところに、大きな秘密があったのです。
(一部抜粋ここまで。次回に続く)
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