自分の「心のクセ」を知ろう──人間関係に悩まないための心理学理論「交流分析」【メンタルヘルス】
2020年07月09日職場の同僚、家族、パートナーとのコミュニケーションがうまくいかない人へ
人間関係って大変。
職場の同僚、家族、パートナーとのコミュニケーションがうまくいかない。そんな悩みを解消し、気持ちを楽にしてくれるのが、心理学パーソナリティ理論「交流分析」です。
▲エリック・バーン博士
交流分析は、アメリカの精神科医であるエリック・バーン博士が作った心理学理論。自分と他人との交流パターンの分析がベースになっています。
前回は、「ストローク」というキーワードを紹介しました。
ストロークとは、「相手を認める言葉や行動」のこと。
他者とのコミュニケーションは、ストロークの交換であり、自分の個性、価値観、考え方や行動のクセは、生まれてから出会ってきた親や先生、知人、友人とのストロークのやりとりによって作られます。
そして、人間関係をスムーズにするポイントは、肯定的なストロークの交換にあることを説明しました。
本当は好意なのに、悪意にとってしまう理由は「心のクセ」にある
職場や家庭、学校の人間関係がうまくいかない原因の1つは、長年培ってきた価値観や思考、行動傾向の違いによります。
つまり、ストロークの出しかたや受け取りかたが、それぞれ異なることから起こる「コミュニケーションのねじれ」がその原因とも言えます。
たとえば、職場の同僚2人に「今日のファッションは素敵だね」と声をかける(肯定的ストロークを出す)とします。
1人の同僚は、「ありがとう」と素直に受け入れ、いい気分になるかもしれません。
もう1人の同僚は、「ありがとう」と口にしながらも、内心は「自分をほめるなんて、ウラがあるのではないか?」と、不信感を持つかもしれませんね。
これは、2人がそれまでの人間関係のなかで身につけてきた「心のクセ」「認知のクセ」によって引き起こされる反応の違い。
これが積み重なると、深刻なコミュニケーション不全を引き起こします。
一般に、自分と異なる言動の傾向には違和感を覚えやすいと言います。
そこから生じるコミュニケーションのねじれをひもとき、円滑な人間関係を作っていくためには、交流分析で説明される「人生の立場」を知ることが助けになります。
あなたが人間関係に悩む理由——4つの「人生の立場」とは
幼い頃に出会った親や周囲の人たちとの関わりを通して、人はみなそれぞれに、自分自身、他人、世間や人生に対して異なる感じかた、捉えかたをします。
心理学理論の交流分析では、この「それぞれが異なる感じかた、捉えかた」のことを「人生の立場」と呼び、4種類のタイプに分類しています。
① I am OK, You are OK → 「話せばわかりあえる」という相互信頼感、安心感があるため、開放的な態度を持つ。
② I am not OK, You are OK → 自信がなく自己卑下をしがちなため、受け身で他者に依存的。心配性。
③ I am OK, You are not OK → 問題が起こると他者を非難しがち。優越感を持ち独善的で攻撃的。
④ I am not OK, You are not OK → 自閉的で焦りや虚しさ、孤独感を感じやすい。逆ギレしがち。
この「人生の立場」は、日々の生活のいたるシーンであらわれます。
たとえば、上司に仕事の成績をとがめられた時……
① → 前向きに受け止め、成績を上げるための方法を考えたり行動に移す。
② → 必要以上に自分を責め、落ち込み、萎縮する。
③ → 自分の力量は棚に上げて、上司の指導力不足や会社の体制の不備を責める。
④ → なにもかも放り投げて、自分の殻に閉じこもってしまいたくなる。
この「人生の立場」の違いが、人間関係のトラブルの原因になるわけです。
③の立場同士が対立すれば、お互いを責め合う泥沼になりますし、③と②がぶつかったなら、②に対する一方的ないじめのようになるでしょう。
それは、どちらにとってもストレスフルな関係です。
さて、あなたの「人生の立場」はどれでしょうか?
めざすは、「I am OK, You are OK」
そこで、めざしたいのは、良好な人間関係を築きやすい①タイプの捉え方。
「I am OK, You are OK」です。
ものごとを②~④の立場で捉えがちなタイプの人でも、「I am OK, You are OK」の立場に近づくことはできます。
そもそも、基本的に①のタイプの人であったとしても、時と場合によっては、②~④タイプになることだってあるのですから、人生の立場は確定的なものではありません。
そのさいに役立つのが、前回の記事でも紹介した「5種類のモデル」。
① 支配的な親(CP):信じる価値観を譲らない。ルールを守ることを厳格に求める。
② 養育的な親(NP):育成的で愛情深く、保護的に働く。
③ 大人(A):現実に対して理知的、合理的に判断する。
④ 自由な子ども(FC):自己中心的、自由奔放にふるまう。
⑤ 順応した子ども(AC):他者評価に従順で、協調的に行動する。
自分自身の心の状態、言動の傾向が、5つの態度のどこにあるかを把握して、「I am OK, You are OK」の立場に近づくようにストロークを調整していけば、コミュニケーションも心地よいものへと変化していきます。
そのさい、相手の心の状態を推し量ることも大事です。
自分の偏った行動傾向に気づくこと。他人のせいにしないこと
最後に、交流分析の提唱者、エリック・バーン博士は、交流分析がめざすゴールを「自律性の獲得」としています。
「自律性」とは、私たちが生まれてから今までに身につけてきた偏った思考、感情、行動傾向に気づき、他人のせいにせず、下の3つの能力を自由に発揮できるようになることです。
① 気づき:思い込みによらず、自分に気づき、理解する。
② 自発性:自我状態を状況に応じて自由に使い、適切な対応をする。
③ 親密さ:「I am OK, You are OK」の立場で他者と心を開き会い、想いを共有する。
なるほど。「自律性」を身につけることができたなら、豊かな人間関係、さらには豊かな人生を送れそうです。
より詳しく、「交流分析」について知りたい方は、下記の参考記事を訪れてみてくださいね。
【参考記事】
・厚生労働省(こころの耳): eラーニングで学ぶ15分でわかるはじめての交流分析1
・厚生労働省(こころの耳): eラーニングで学ぶ15分でわかるはじめての交流分析2