デスクワーカーなら知っておきたい「大腰筋」の話。インナーマッスルにアプローチするエクササイズ
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デスクワーカーなら知っておきたい「大腰筋」の話。インナーマッスルにアプローチするエクササイズ

2020年05月21日

リモートワーカーは要注意。デスクワークの弊害

コロナウイルス感染症の感染防止のために、在宅勤務をする会社員が増えていますね。まだ当分は自粛が続きそうです。

ぼくは職業柄、出版社の友人が多いのですが、編集者はパソコン作業がメインなので在宅勤務がしやすいみたいですね。すでに2月から完全に在宅勤務へ切り替えた出版社もあります。その場合、もう2~3ヵ月も自宅で仕事をしていることになります。

在宅勤務のメリットは、なんといっても、通勤しなくてよいこと。電車が混む人や遠方から通勤する人は、会社に着いた時点で、疲れ果てていることすらありますから……。

でも、その一方で、在宅勤務のデメリットもあります。

まずは運動不足になること。通勤がない分、身体の活動量が減ります。通勤はほぼ毎日のことですから、その影響は大きなものです。意識的に体を動かすことが必要になります。みなさんも危機感を持っているのでしょう。外でジョギングをしている人がすごく多いなーと思います。

 

「座りすぎ」はカラダに悪い?

また、在宅勤務だと当然、デスクワークの時間が増えます。

つまり、「座る時間」が長くなります。この「座りすぎ」がカラダに及ぼす害は、決して小さなものでありません。最近は「座りすぎ」に警鐘を鳴らす報道も増えましたので、ご存知の方も多いでしょう。

 

なにしろ、「座りすぎは喫煙よりカラダに悪い」とまで言う人もほどです。

 

さすがに喫煙よりカラダに悪いというのは言い過ぎだと思いますが、いくら運動をしても、座っている時間を減らさない限りは、健康的な生活とはいえない、というのが新たな常識になりつつあります。

いくつかデータを紹介しましょう。オーストラリアの調査では、11時間以上座っている人は、4時間未満の場合と人と比べて40%も死亡率が高いといいます(※1)

また、アメリカの癌学会は、こんな研究結果を発表しています。53,000人の健常男性と約70,000人の健常女性を対象に、1993~2006年の13年間における活動レベルと死亡率を調べました。

【参考記事】American Cancer Society:Study Links More Time Spent Sitting to Higher Risk of Death

 

その結果、「座る時間が1日6時間以上の女性」は、「座る時間が3時間未満の女性」よりも早く死亡する確率が37%も高かったそうです。

また「座る時間が1日6時間以上の男性」は、「座る時間が3時間未満の男性」と比較して、死亡リスクが18%高いこともわかりました。

長時間の座位が健康に及ぼす影響は、ぼくたちが考えているよりも、はるかに大きいといえそうです。

 

股関節はずっと屈曲されている

「机に向かって仕事している時間はそんなにないから、大丈夫かな……」

なかには、そう考える人もいるかもしれません。しかし、机に向かっている時間だけが座っている時間では、もちろんありません。

 

・車の運転

・テレビ鑑賞

・読書

・食事

 

こういった時間も含めていくと、座位の時間は意外と多いことに気づくでしょう。

よく考えれば、ぼくらは寝る時間を除けば、大体の時間は座っているわけです。「座る」ことが、あまりにも日常的な動作なので、あたかも身体を休ませているような錯覚を抱いているに過ぎません。

 

そもそも「座っている」というのは、身体にとってどういう状態なのか。

 

それは「股関節を屈曲させた状態」のことです。そう考えると、身体への負担も理解できますよね。ずっと同じ関節を屈曲させているわけですから、その悪影響がないわけがないのです。

にもかかわらず、座っているとリラックスできる理由は、股関節屈筋が、収縮に対して作用していないからです。言い換えれば、筋肉が屈曲した状態にあるだけで、座ったときの胴体部の全重量は骨盤底にかかっていて、下肢は活動していません。

 

だから、疲れないのですが、座っている姿勢が長く続くと、血行および筋肉のコンディショニングが悪化し、神経の反応が阻害されることすらあります。また、腰部や坐骨における問題の直接的な原因にもなります。

 

そこで、宮崎県で鍼心堂・くすりのしんしん堂を開業する鍼灸師・沼口樹也先生にお話を伺いました。

 

沼口先生:ずっと家にいることで、筋肉にこわばりや引きつりの症状がでてしまう患者さんは増えていますね。筋肉は、伸縮することで血液を筋に送っています。運動不足になると、老廃物が排出されず、酸素も入らないので、カラダの中で悪循環を起こしてしまうんです。

 

座っているうちに、股関節屈筋は短くなり、弱体化します。そのうちに無数の問題が生じてくるのではないか――。沼口先生はそう指摘します。

 

「大腰筋」は身体の要の筋肉。インナーマッスルへの簡単アプローチ法

そうは言っても、座る時間を急に減らすのは難しいですよね。

特に、今のように在宅勤務をする時間が増えているなかではなおさらでしょう。

 

座りすぎによって、ダメージを受けやすいのが、「大腰筋(だいようきん)」です。普段あまり意識することはありませんが、非常に重要な働きを持つ筋です。そのことは、大腰筋の解剖学的な位置づけを踏まえれば、よく理解できることでしょう。

 

 

大腰筋は、股関節前面と下位脊椎の深部にある筋肉で、上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉です。股関節と腰椎において、大腰筋は下記の3つにおいて、とても重要な働きをしています。

 

・姿勢筋

・動筋

・スタビライザー(安定筋)

 

また、大腰筋は、ちょうど身体の重心近くに位置しています。そのため、大腰筋は身体全体のバランスを調整する働きもあります。

 

そう、大腰筋は「身体の要(かなめ)の筋肉」といっても過言ではないのです。

 

大腰筋へのエクササイズ「ウインド・ミル」でカラダのバランスを取り戻す

座りすぎによって大腰筋にダメージを与えることは、カラダのバランスを取る重要な働きを阻害することになります。デスクワーカーが陥りがちな「座りすぎ」のダメージを緩和するエクササイズをご紹介していきたいと思います。

 

今回は「ウインド・ミル」というエクササイズを沼口先生に教えてもらいました。

 

沼口先生:まずは、両腕外側きくげてってください。そこから、右手左の足首のほうに伸ばしていきます。限界のところで、10秒程度キープします。反対側も同じように行います。わずかに膝を曲げるとやりやすいでしょう。

 

▲限界まで伸ばしたら、10秒キープ。大腰筋に直接アプローチするストレッチ

 

▲横からみたポーズ。膝は少しだけ曲げるとやりやすい

 

回旋への抵抗が少ないので、エクササイズとしては軽いですが、このウインド・ミルで大腰筋だけではなく、腰方形筋や横突間筋群を鍛えることもできます。

腰回りのストレッチとして、デスクワークの合間に、ぜひ取り入れてみてください。

 

【監修】沼口樹也先生(鍼心堂・くすりのしんしん堂)

【取材協力】鍼心堂・くすりのしんしん堂(宮崎県西都市上町1-53/TEL:080-2402-1109)

【参考論文・参考文献】

  1. (※1) van der Ploeg HP, Chey T, Korda RJ, Banks E, Bauman A. Sitting time and all-cause mortality risk in 222 497 Australian adults. Arch Intern Med. 2012 Mar 26;172(6):494-500.
  2. Alpa V. Patel, Leslie Bernstein, Anusila Deka, Heather Spencer Feigelson, Peter T. Campbell, 5 Susan M. Gapstur, Graham A. Colditz, and Michael J. Leisure Time Spent Sitting in Relation to Total Mortality in a Prospective Cohort of US Adults.” Thun. Am J Epid Published online July 22, 2010 (DOI: 10.1093/aje/kwq155)
  3. Biel, Andrew. Trail Guide to the Body. Books of Discovery, Boulder, CO,2010.
  4. Brennan, Barbara Ann. Hands of Light. Bantam Books, New York, 1987.
  5. Calais-Germain, B. The Female Pelvis: Anatomy and Exercises, Vista, CA,2003.
  6. Jo Ann Staugaard-Jones.The Vital Psoas Muscle: Connecting Physical, Emotional, and Spiritual Well-Being. North Atlantic Books 2012.